自由民主党・衆議院議員
木原誠二

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2016.03.28

<若者を基軸とした経済対策勉強会>(第1回 Teach for Japan 松田悠介代表:3月16日)

16日から、自分がが座長となり、「若者を起点とした経済対策に関する勉強会」をスタート。
第一回はTeach for Japanの松田悠介代表にお越し頂きました。従来の企業・団体目線でなく、「社会に・地域に貢献・恩返しを」と社会的起業などに挑戦する若者の挑戦をサポートする政策を研究していきます。

要旨は以下のとおりです。

<若者を基軸とした経済対策勉強会>(第1回:3月16日)

 

村井:定刻となりましたので、「若者を基軸とした経済対策勉強会」の発足及び第1回会合を開催いたします。今日は松田悠介Teach for Japan代表理事のプレゼンテーションの後、質疑応答等をしたいと思います。加藤勝信大臣が12時45分頃おいでになり、本会の趣旨等をご説明いだたきますが、まず、座長に就任をされた木原誠二さんのご挨拶です。(拍手)

 

木原:こんにちは。皆様には、急なお呼びかけでしたが、ご承諾いただいてありがとうございます。実はこの会は、加藤大臣からの、若者を中心とした景気対策、若者発の新しい経済作りという点をインフォーマルに考え、提言をしてほしいという要請で発足しました。大臣との話の中で感じている要点を3つほど申し上げます。

1つは、政府・自民党などが経済政策を考えるとき、どうしても、企業あるいは地域、業界といった組織、ある種の組織的まとまりに主眼を置いて考えがちなので、そうではなくて、個人や世代という切り口で考えてようと、特に今回は若者発の視点を持とうということです。

2点目は、その際、世代的な社会政策、例えば子育て支援、働き方支援といったことではなく、むしろ若者の起業や新しいことへのチャレンジをどう支援していくかを考えたい。特にその中で、ソーシャルアントレプレナーシップ、社会貢献型の起業に着目し、規制改革、必要な資金の調達、ネットワーキングといったところを少し考えてみようということです。

3点目は、お金の問題です。富裕な高齢者から若い世代へのお金を移転ということで、教育費、住宅などさまざまな贈与の仕組みができつつありますが、これらはいずれも家族内だけの縦の移動です。これを、家族から親戚、隣の家族、地域、そして国全体で、高齢世代から若者世代で資金を移転させ、若い世代がそれをもとに社会貢献型の起業ができるのではないかと。

これらの3つのことを中心にしつつも、決してこれに限るものではありません。ぜひ多くのことを勉強し、それをもとに検討していきたいと思います。

本日は、講師として松田さんをお招きしていますが、実際の活動をなさっている方のお話を伺いたいということで、ご快諾いただきました。本日のお話の内容は、後日概要版をつくって配布させていただく予定ですので、皆様各自、SNS等で拡散していただければ幸いです。フィードバックも期待されるところです。そのような感じでよろしくお願いいたします。ありがとうございました。(拍手)

 

村井:ありがとうございました。それでは早速ですが、Teach for Japanの松田悠介さんのお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

松田:よろしくお願いいたします。Teach for Japanの松田です。先週お話がありまして、ただ、村井(英樹)さんからの呼びかけならばぜひということで調整させていただきました。村井さんとはハーバードでご一緒させていただき、6、7年の付き合いになります。

私は大学卒業後、体育の教員をしていました。その後教育委員会を経てハーバードの大学院に留学をし、帰国後はPwCというコンサルティングファーム勤務後、2010年の7月にTeach for Japanを起業しました。さまざまな会議体で教育政策の提言のお手伝いをさせていただいております。

私どもTeach for Japanとしては、起業マインドを持った子供たちを増やすことの重要性を感じております。本会のテーマ、若者を基軸とした経済対策ということですが、私個人としては、起業家を育てていくことは非常に重要だと思います。同時に、経済対策ですが、若者世代の厳しい就労状況についても考えなければなりません。一口に起業といっても、雇用の創出につながるものはごく一部ですので、施策的にはトップ層に限ったものになるでしょうか。大多数の方は、起業以前にまずは就労・自立が重点課題となっています。したがいまして、私自身の経験も交え、起業の事例をご紹介しつつ、大多数の若者の就労についてお話ししたいと思っています。

私は年間、難関大学の大勢の優秀な学生と接していますが、その中で、どんどん若いうちからチャレンジしていってほしいなと感じています。ある意味、学生時代のチャレンジならば、リスクを伴わないといっても過言ではありません。仮に失敗しても、次のチャンスも得やすいですし、企業の人事担当の方とお話しすると、そうしたチャレンジ精神のある学生さんは、人材として歓迎されるようです。ですので、学生時代から積極的にチャレンジできるプラットフォームをつくりたいという思いがあります。

では、具体的にはどのようなプラットフォームをつくるべきか。これは教育の世界でも同じですが、「I want(したい)」と「I can(できる)」の状態をつくるということが重要です。願望や展望と、自分はそれができるのだという自信がそろったとき、初めて起業に踏み出すことになるでしょう。しかし、多くの学生さんとお会いしても、この2つが整っているのは、非常に限られた状態というのが現実です。

また、「したい」と「できる」がそろったとしても、若さゆえにスタートアップのための資金、あるいは経験値などのリソースは不足しているのもまた現実です。そこをいかに応援していけるかが重要な鍵となります。

私も起業を考えたとき、自分の持ち出し資金は200万円。教員経験とコンサルでも1年勤務というスキルしかありませんでした。しかし、起業のための中間支援団体があり、内閣府からの予算もついていたので、ここからスタートできたのです。スキルの不足も、さまざまな企業の経営者が団体のメンバーとして在籍なさっており、物心両面で若者の起業をサポートしてくれます。そうしたサポートを受けられたおかげで起業できました。例えば起業家支援を20年ほど前から実施している、いわば草分け的存在ETIC.(エティック)は、学生のインターンシップなども盛んにやっています。

起業の話はここひとまず置き、そもそも職に就いて働くことも難しい若者の支援についてお話ししましょう。

まず、経済的な問題があります。学力と、それに伴う高校や大学の進学に大きな影響のある大問題です。現在、貧困状態にある子供が16%、つまりは6~7人に1人いるという話を聞いたことがあるでしょう。1学年120万人とすると、そのうち18万人ぐらいの子供たちが貧困状態ということです。これを放置すれば、生産性低下や公的扶助の必要性等で、経済的損失は2兆9,000億円、社会保障コストは1兆1,000万円も増加すると言われています。

 

村井:今、加藤勝信一億総活躍担当大臣がいらっしゃいましたので、会の創設に当たっての趣旨等、ご挨拶いただければと思います。(拍手)

 

加藤:皆さん、こんにちは。一億総活躍担当大臣をしております加藤でございます。

現在、日本経済が、かなり世界経済の影響を受けておりますし、避けられないことでもありますが、日本としてなすべきことをしっかりとやっていかなければなりません。次の三重県伊勢志摩で開催されるG7サミットにおいても、この経済問題が非常に大きなテーマになるでしょう。議長国として日本が掲げる指標が「一億総活躍」です。

安倍政権はデフレ脱却を推し進めてきました。デフレ状態においては、リスクを避け、守りの姿勢に入るのは致し方ないことですが、それをよしとせず、いわゆる「三本の矢」によって経済的な状況を変え、挑戦する日本にしていこうということが根底にあったと思います。そんな中で、果敢に挑戦していくのは、やはり次代を担う若者たちです。若い皆さんのエネルギーや、若い感覚が生み出す発想ことが、現状を乗り越える上で鍵になるのではないかと考えております。我々のような「上の世代」は上の世代として議論してまいりましたが、なかなかブレークスルーにはつながりません。そこで、知恵を出し、動いていただける若い方々を、どのように応援していこうかという話になります。本勉強会はそのためにつくらせていただきました。4月中ぐらいを1つの目安とし、議論をまとめていただけたら幸いです。私自身は若い皆さんの中に入ることはできませんが、サポートさせていただきたいと思います。皆さんの議論が政権の中核となるように、ひとつよろしくお願いをしたいと思います。

松田先生、大変お忙しい中お越しいただきありがとうございました。(拍手)

 

松田:では、お話を続けさせていだたきます。

Teach for Japanの軸は、厳しい状況にいる子供たちを支援し、教育を通して、将来的に社会保障を受ける側ではなく担い手になれるよう育成していくことです。保護者の年収と子供の学力は比例するとよく言われますし、実際多くのデータも出ています。まず、入学する偏差値によって、大学進学率も大きく変わってまいりますし、ひいては就労先や就労率にも影響があります。大学に進学しないと、安定した職業に就くことも難しいのが現状であり、大卒か否かで生涯賃金にも大きな格差が生じます。つまり、年収が高い家庭では大卒高収入、低い家庭では低収入になる人生が先にあるというふうに、連鎖があるということですよね。まずこれを断ち切る必要があります。

とはいえ、大学進学がすべてというわけではありません。今回のテーマである起業においても、最も大切なのはアスピレーション、問題意識や、こういうことがしたいという思いです。高卒や大学中退の人であっても、起業に成功している人は大勢います。学歴に関係なく、そういったことが見出せるならば問題はありませんが、アスピレーションは、さまざまな出会いや体験を通して得ることができますが、それが実際の目標や夢にまでつながることがさらに求められます。高卒の人と、一流大学に通う人とでは、出会う人や経験することにも違いが出てきますし、起業をするためのアスピレーションにも差が出てきます。進学率を高めることには、こうした意義もあるわけです。また、さまざま出会い自体が起業のための人脈にもつながっていきます。

こちらの図の右側をごらんください。なかなか職に就けない人への就労支援や、就労できず、生活にも困る人々への支援、いわば「福祉」についてです。起業をすることで社会貢献ができる人と、社会保障という福祉を受ける人との差を埋めるには、かなりのエネルギーを要します。大阪市で2012年に生活保護受給も8,000名に対し、就労支援を行いましたが、1年後、仕事に就けたのはそのうち2%だけでした。そうした事態に陥らないため、子供のうちから自立の意識をはぐくむことが肝要ですが、それに寄与するのが図左側の「教育」ということになります。

また、職業の中でも、時代の中で淘汰されていく仕事と、生き続ける仕事があるでしょう。そちらは現在整理している段階ですが、いずれなくなってしまうであろう仕事につくための教育は無意味です。現在の子供たちが就労する、例えば2030年の社会がどうなっているかを想像しながら学習環境をつくっていくことが大変重要です。この点で私どもが参考にしているのは、アメリカのNPO「Teach for America(以下、TFA)」の活動です。1990年に立ち上がったこのNPOは、アメリカでの教育格差問題に取り組んでいます。アメリカの教育格差問題は深刻で、地域や環境によって子供たちの進学、就労が決まってしまってしまう現状を解決しなければいけませんが、課題が山積しています。その課題解決ができそうな優秀な人材は、実際には金融街に就職して高収入を得たりしていますが、必ずしも充足感を得ているとは限りません。その優秀で満たされない人材と、社会問題の解決をマッチングするのがTFAです。具体的には、優秀な人材を教育困難校に2年間、教師として派遣をするという活動をしています。毎年6,000人もの人が派遣されています。あのハーバード大の学生の6人に1人がTFAに応募をしますが、合格率は10%。それほど厳選された非常な優秀な人材が集まっているということです。2010年の文系学生就職ランキングでは1位になりました。

こうした取り組みの効果は、教育環境の改善だけでなく、派遣された人材のリーダーシップ向上にも役立っています。2年間教育現場に身を置き、その後も教育の世界に残る人は6割以上です。教育以外の分野に目を向けても、TFAのプログラムに参加したことで培われたリーダーシップなどが評価され、ビジネス、行政など他の業界でもひっぱりだこの人材となります。それぞれがどんどん変革の担い手になり、社会全体を巻き込みながら教育を支えていく仕組みに成長しているのです。元ワシントンD.C.の教育長はこのプログラムの卒業生ですし、連邦議員、ビジネスリーダーなどを何名も輩出しています。今やTFAは400億円以上の寄附を集めるほどの団体に成長をしております。アメリカの優秀な人材にはリーダーシップ経験を求められていますが、日本においてもこのトレンドが起こり始めています。

Teach for Japanは、TFAを基本的にモデルとし、活動を展開しております。全国の教育委員会、特に就学援助率が3割、4割を超える自治体の教育委員会と連携し、ご支援申し上げております。

また、我々のプログラムの1つの特徴として、「特別免許状」という文科省の制度を活用しる点があります。うちの先生は8割方がいわゆる教員免許を持っていませんけれども、優秀な人材をしっかりトレーニングし、そして2年間教師としてご紹介・派遣をさせていただいております。対象となるのは、多くの子供が通う公立の学校です。その子供たちと最も長い時間向き合っているのは、実は親・保護者よりも教師たちです。その分、インパクトが実は非常に大きいと思っておりまして、公立学校の現場に派遣しています。

そして、実は現在、教師になりたいと考える人が少なくなっているという現実もあります。教育は国づくりの根幹たるべきもので、教育を通してアントレプレナーシップ(起業家精神)を涵養したり、チャレンジすることの大切さを教えるという側面があるにもかかわらずです。この現場を改革することが、社会的にどれほどのインパクトとなるか、ぜひとも知っていただきたいと思います。

Teach for Japanで活動している「先生方」も、青年海外協力隊や国境なき医師団への参加を経験している人、スペインのリーガエスパニョーラで活躍した選手、外資系銀行出身、大手商社への勤務経験がある人など、優秀で多彩な方々ばかりです。こうした人々が現在、子供たちと向き合い、教育者として導いています。採用基準等、こちらのページで示しておりますので、お目通しいただければ幸いです。最初から完璧である必要はありませんが、成長力を持った人材であることが求められます。

先生たちも最初は、持て余したエネルギーをどうにもできない元気な子供たちに手を焼いたりします。こうした子供たちには、何か障壁があってもそれを解決するための熱量はあるのですが、具体的なノウハウやスキルを身に着ける機会がなかったので、そうしたスキルが身に着けられるように指導する必要がありますが、子供たちは教育を通して問題解決のスキルを身に着け、先生たちは子供たちと向き合うことでリーダーシップを醸成します。つまり、お互いが成長していけるような化学反応が期待できるのです。

我々が実際支援しているある県の学力テストの結果です。今、中1の英語を教えていますが、中2・中3の英語は県の平均以下。しかし、我々が派遣した先生が半年教えた結果、プラス20ポイントという結果が出ました。その後、11月の段階でプラス27ポイント。現在は英語スピーチコンテストの準備中です。1教科が上がれば、ほかの教科も引きずられて上がります。この1人の先生が150人の生徒と向き合うことで、150人の次世代に影響を与えていくということになるわけです。これが格差が生じてしまった大人世代の就労支援、社会保障などの段階で考えると、大変な資金や労力を要しますが、子供の教育の段階から考えれば、1人のレバレッジ(てこ入れ)を入れることで150人、200人に影響を与えることになるのです。

私はこの教育現場こそが最高のリーダーシップ経験ができる場だと思っています。世界でもどんどんそうしたリーダーが輩出され、フォーブス誌が出しているunder30のヤングリーダートップの人たちのうち、アメリカの教育部門のトップテンの6割がTFA卒業生です。私どもTeach for Japanでも、どんどん輩出していきたいと思っております。先生のリーダーシップ育成、転職支援、またアントレプレナーシップ教育などを考えておりますが、そのため、ディスカッションの時間を増やすことも考えていきたいと思います。

ただ、1つ、このモデルを展開していく上で、今後チャレンジしていきたいところとしては、先生が変われば学級が、学校が、そして教育施策が変わるということがわかりましたので、そもそも先生の育成や採用のあり方を抜本的に変えるべきではないかと思います。私どもは免許を持っていない人材を育成して、先生のパーソナリティーでインパクトを与えている部分がありますが、それを放任しようということではなく、そういう育成方法もアリではないかと。現状の規制下では、教員の養成は大学でなければできず、教員免許は教育委員会しか付与することができませんが、民間事業者の力を活用した教員の資質向上事業というのが動いており、文科省も問題意識を持っております。安倍総理の一声で始まったたものですが、今後ともぜひ後押しをいただきたいと願っております。民間の力が入れば、多様な教員が育ってくると思います。どんどん多様な優秀な教員が増えれば、教育の質そのものが変わります。学習指導要領ではなく、教育する人を変えていくというところがレバレッジになると私は考えております。というところで、私からのお話はここで一区切りさせていただきたいと思います。〔拍手〕

 

村井:ありがとうございます。コンパクトにまとめていただき、ありがとうございました。今のお話に意見等、質問等いただきたいと思います。

私は松田さんの留学中の同級生ですが、Teach for Japan、本当にすごいプログラムです。普通は普通教員免許を持っていないとクラスも持てないんですけれども、ここから派遣された人はクラスも持てています。もう既に大きな風穴を開け、子供たちの教育水準引き上げに寄与し、さらに先生として教える人たちのリーダーシップを高めることにも寄与している団体なんです。

あともう1個だけ補足をすると、最初はいろいろ大変でしたが、年間1億2,000万の寄附を集め、それだけで運営をしています。そのあたりも踏まえてさまざまご意見等、ご質問等をいただければと思いますが、いかがですか。

 

松田:付言しますと、寄附のみならず、企業の資源、例えば人材派遣のインテリジェンスさんという企業では、我々教員の採用のサービスを無償で提供してくださっています。ほかボストンコンサルティンググループさん、PwCはコンサルテーションだったり、そこにいる職員のナカジマは、PwCから出向なんですね。だからPwCが給与であったりとか全部支払った状況で、社会課題の解決を民間と連携をしながらやっているというのが1つの新しい特徴ではないかと思いますは思っております。

 

村井:NPOとして回っていくためには、やっぱり寄附が集まらなきゃいけないと思いますけど、どういう価値を彼らには提供しているのかというのが1点と、Teach for Japanも2年間なんですよね。その後はどうなっていくでしょう。休職して2年やって、また自分の会社戻ってもいいでしょうし、別の分野に入っていってもいいと思うんですけど、そのあたりと給与体系は学校の給与体系になっていくという認識でしょうか?

 

松田:寄附については、企業さんは2つの事業があります。1つは社会的な責任。本業ももちろんその責任を果たしているわけですけれども、必ずしもそれが見えるわけではないので、形に見える応援の仕方ということで、ほとんどの企業さんが今、生産活動をやられてきているのかなと。今後統合報告というのが主流になると言われておりますけれども、統合報告の中では、その企業さんがどれぐらい社会的な価値を生み出しているのかというところが、投資家が投資するか否かの視点になってきますので、企業さんも、いかに社会に還元できるのかというところに軸を置きながら事業活動を考えていくところにシフトし始めているので、活動強化していただいて、寄附していただけるようになっています。

もう1点については、我々の人材に興味を持っていただいています。ほとんどの企業さんに、「2年後どうするんですか?」と言っていただけています。もし我々の先生が金融機関に興味がある、もしくはコンサルティングに興味があるということであれば、企業さんとしてはリーダーシップの修羅場をくぐり抜けてきている人たちが欲しいと思うわけですから、ある程度優遇していただける可能性があります。企業からすると、人材のトレーニングコスト、つまり採用コストを下げることにつながるということで、ご寄附いただいている場合もございます。

TFAの場合もそうですね。TFAの卒業生というのは、非常に民間企業でも喉から手が出るほど欲しい。プライスウォーターハウスクーパースが、普通のビジネスを2年経験した人材とTFAのプログラムを卒業した人材を同時に採用して、経年的に調査したんですね。昇進のスピードが3倍違ったそうです。Teach for のプログラムのほうが速いんですね。コミュニケーション能力や社会性、課題解決、リーダーシップの発揮の仕方が全然違うということです。アメリカでもそういった形で、多くの企業さんが400億円以上の支援をしています。

2点目ですが、我々まだ4期生でございますので、2期生が出たばかりです。まだ規模が小さくて、2期生は11名でしたが、7名がそのまま正規の教員として続けています。教員採用試験に合格して続けていくと。残りの4名のうち1名が今世界へ出ていって、この間までミラノ万博の通訳として働いていました。1名は、我々学校をつくるというところで、今、起業準備をしながらTeach for Japanの職員をしてくれています。1名はそのまま民間の人事系のコンサルティングファームで働いておる状況でして、世界でも大体6割か7割が教育現場に残る傾向はありますが、スケールが大きくなればなるほど、起業を含め、他業界で活躍する卒業生を増やしていきたいという思いを持っております。給与体系は、これは教育委員会が採用しておりますので、既存の大学を出て教員免許持っている人材を、うちの人材がいいと思っていただいておるところがございますので、そういった人を採用するとなると、我々の人材を採用するという形で、教育委員会の予算、既存の予算から回していただいているというところは1つの特徴かなと思っています。

 

村井:特別免許状、臨時免許状という話がありましたけど、これは特別制度としてあって、皆さんの活動で活用をされるという経緯ですね。

 

松田:そうですね。20年ぐらい前から特別免許状の制度があるんですけど、付与についてはほぼゼロです。

 

村井:スタートアップの松田さんのところにこれが、優先的にではないけれども付与されるようになってきました。それはどこにコツがありましたか?

 

松田:教育委員会も数千ありますけれども、教育をドラスティックに変えていきたいと考える教育長がいらっしゃるのです。課題が深刻だからこそやらなきゃいけないという緊急性や危機意識を高く持っていらっしゃる教育委員会と連携をさせていただいております。我々は今まで100ぐらいの教育委員会を回りましたけれども、その中で一番信頼関係が築けた7つぐらいと連携をさせていただいております。

もう1つのドライバーは、政界やビジネスリーダーからのアプローチです。例えば我々、福岡県飯塚市で非常に強いモデルがつくれていますが、これは飯塚市出身の麻生泰さんの飯塚の教育をどうにかしていきたいという思いから、金銭的なご支援を受けています。また、今、福岡県の教育長、飯塚市の教育長、そして議会を巻き込んで、このプログラムがうまくいくようになってきているのかなと。そしていろんな会議体でTeach for Japanのことを勉強していただき、広がりを見せる1つのきっかけになってきているのかなと思っています。

 

村井:飯塚は人材はローカルの企業の人なんですか?

 

松田:これまた面白いのが、ほぼ採用は東京なんです。やはり東京に人材が集まります。しかし飯塚で2年間教員いると、もう「飯塚の人間」になりますね。教育がきっかけとなった一種のIターンみたいな形です。インターンや旅行と違い、2年間現地でプロとして働くからこそ起こってきている現象なのかなと思います。

 

大野:今の教育を見ると、現場に権限も責任もないから、好循環が生まれていないように見えます。例えば一般の教師の皆さんは非常に優秀だし、教え方もうまい。熱意もあります。しかし、何かやり始めて何か問題が起きると、みんな責任逃れになっちゃうわけですね。みんな責任逃れたいから、ペーパーワークを下に落としていくという感覚で、結局現場はペーパーワークがめちゃくちゃ多いということになっているんですね。確かに政治がリーダーシップとり、やれよと言ったら枠組みができるかもしれませんが、仮に何か問題が起き、みんなが責任逃れのような状況になったら、結局同じことではないかと、素人考えですが思いました。

といっても、基本的には否定しているわけじゃないんです。逆に教える方も学べるというのは面白いなと思います。

 

松田:ご指摘のとおり、優秀な先生はたくさんいらっしゃいます。今後は人材供給の点で、どう人材を増やしていくかが大切です。今の日本の教育というのは、20世紀の社会にベストフィットし、世界最高レベルと言われましたが、21世紀になってきておりますので、そこに適応した教員養成や採用の仕組みをやらなければいけないと思っています。

今ご指摘いただいた、なぜうちが機能しているのかというところですけれども、従来からいる優秀な先生は「点」なんです。うちの場合は、トップからもボトムからもやるので、つながっています。つまり飯塚市の教育長のもとに、その問題等をちゃんと受けとめて、学校現場でやっていき、教育長には明確な責任があります。そこの思想が反映されるように、我々の人材が一緒に動いているというところは、うまくいっている1つの事例なのかなと。「面」として取り組み始めているというところが1つの特徴ではないかと思います。

 

大野:私が聞きたかったのは、そうしたシステムがなぜできないかということです。やっぱり現場に責任と権限を持たせるというのが肝だと私は思います。ここができていないのはなぜなのか。それは何かで担保していないということです。その流れにもなっていて、教育委員会の構造改革というシステム改革があり、その流れになっていますが、まだ弱い。例えばいじめ問題かが発生して、校長先生が出てきて、「私は上からの指示どおりに私は動いている」と。そして教育委員会、文科省が「我々はちゃんとペーパーで」といったありがちなパターンに陥ります。根本的に何か変えないといけないのではないかと。

 

村井:現場に落とすということも必要ですが、やりようによっては多分うまくワークするようになり始めているので、その起爆剤として彼らがいるという認識でしょうか?

 

松田:そうですね。我々が一緒にうまくやって、成功体験を共有するとします。すると教育委員会もどんどん、やればできるんだなってきます。

我々の飯塚の例で申し上げますと、リクルートさんが今、勉強サプリ、受験サプリという、月々980円で見れるサービスをつくっていますので、そことおつなぎしています。カリスマ先生の授業などを、塾に行かなくてもビデオで見れるようになっているんですね。今までそれを直に入れようとしても絶対うまくいきませんでした。我々が1つ成功体験共有していって、我々が1つの今ハブになりつつ、民間の資源を活用して、教育委員会にもどんどん取り組んでいってもらえるようになっているというところがあるのかなと思いますけれども、ある程度仕込みのところもあるので、そういったところは制度面として、私そこまで今ご指摘いただいていることに対して…。

 

大野:これをうまくワークできるようなシステムをつくったほうがいいとか、何かそういった意味の提案は。今のシステムをこう変えたほうがいいよとか。

 

松田:今、市区町村の教育委員会、何かやろうと思うとやれないんです。全部県が握っちゃっているので。その権限移譲をいかに市区町村レベルに落とし込んでいくかというところがすごく重要です。

 

大野:絶対そうです。

 

松田:アメリカでは学校の先生が教員を採用するんですね。その学校の思想とか学校の取り組みに、やっぱりずっと定着をするという文化ができていますが、日本の場合は、何か中途半端に中央集権的なところが、教育の部門においてはありますね。

 

大野:責任逃れ対策の集約点みたいな。

 

松田:県と文科省の中でも、責任の押しつけ合いみたいなこともやっていくわけです。

 

大野:学校がこれいいじゃんと言ってできるようになれば、一番いい。

 

松田:そうですね。

 

村井:ちょっと私から。公務員や大企業で働いている人たちからすると、外の世界を見る機会があまりないわけですけど、例えば7年、10年働いた人で、希望する人はこういうTeach for Japanみたいなプログラムに送って、1~2年間そういう経験を積んで、また会社に戻ってこられて、場合によってはそのままそっちの世界に行ってもらうみたいな仕掛けというのができると、労働市場の活性化にもなるし、面白いかなとふと思います。いろんな企業を当たってみて、そういうのに乗ってくれそうな会社というのはありそうですか?

 

松田:出てきています。先進的な企業さんでは、積極的に2年間休職ぐらい認めてもいいからね、みたいな話も出ています。ただ、まだまだ本当にごく一部ですが。そういったところを経団連とかを通して、大人になってからのギャップ・イヤー的なものというのは、逆に言うとそういった優秀な人材が実際にやめちゃうというのが1つの課題にはなってきています。会社がそういうことを認めないので、やめちゃえと。逆に言うと、2年間やって、戻ってきてもいいからねと送り出すのは、実は会社にとってもメリットになるというところもあるんですよね。企業のイントラプレナーシップ、企業の中の起業家育成ですね。多分日本人的にはイントラプレナーのほうが合っています。いかに社内起業を促進するような仕掛け、仕組み。I want、I canを調整していくのかというのは重要なんじゃないかと思います。自分の同世代にもたくさんいます。起業してまでのリスクはとれないけれど、社内でもう少しチャレンジできる期間があるなら、積極的に援助していきたいという発想です。

 

村井:起業の話をしていると、結局、雇用制度みたいな話に行き着きます。やはり大企業ほど新卒採用主義のところが未だにあるので、外に打って出られない。結構最近、兼業を緩めろという話とか、1年間休業を与えるから、その分やって、戻ってきてもいいみたいな仕掛けもできないかなというのが、実はこの会の裏テーマでもあります。

 

大野:雇用の問題だけでなく、例えばSSH(スーパーサイエンスハイスクール)。あれなどはまさに子供たちに気づきも与えられるし、行くほうもめちゃめちゃ何か、要するに本質論を語らないと子供たちに伝わらないかなと。それで余計勉強するらしいですね(笑)。逆に原点に戻って教え、また現場に戻るので、新しい発見がまたできて、結構クリエイティブだということをおっしゃっています。これいいんじゃないかなと思います。

 

松田:日本人的な発想かもしれないですけども、優秀な人材でも、周りの反対から、やっぱり冒険しないんですよね。親やパートナーの反対でリスクとれないみたいなことがあるので、例えばギャップ・イヤー2年間やった人は証明が出たり、認める企業をプラスに評価する要素になれば、MBAに行くような感覚で、人々が2年とか1年とか何かチャレンジした経験をかちっとしたものが当てはめられると、周囲もプラスしてとらえて的なことを言ってくれるかもしれないななどと。実現性のほどはわかりませんが。

 

大野:逆に親との関係では、就職するときに一応親に確認することがあったりしませんか?

 

松田:そういうところありますね。

 

大野:本当に私の会社に就職してくれるんですかと、本人にも親にも聞くとか。あるいは保険に入るときも親に聞くとか。余計にこういうのってリスクテーキングという観点からすると、実におかしいような気がするんですけど、これを断ち切るほうが重要なんじゃないかと思ったりします。

 

松田:ぜひとも冒頭に申し上げたETIC.の宮城治男代表、後からご紹介しますが、彼はまさしくそういったリスクテイカーを応援して、それを1つの社会のロールモデルにしていこうという話になりますので、どんどん若手起業家のロールモデル、under40みたいな形で応援していって、そしてロールモデルとなり、そうするとフォロワーがついてきますから、自分もチャレンジしたいかなというところから始め、それをどう教育に落とし込んでいくのか。早い段階からチャレンジすることがいいことなんだということを、小学校段階から伝えているのがアメリカでございます。するとあれだけ活力が出てくるわけですね。だんだん考えていただきながら進めていかれるのがいいんじゃないかなと思いますけど。

 

村井:ありがとうございます。そろそろ時間も来ているので、第1回を閉じさせていただきたいと思います。加藤大臣からも話ありましたけれど、基本的には若者の挑戦をどう応援していくかというのがこの勉強会のご趣旨です。そのための方策を、これまでの霞が関・永田町的な発想ではなく、実現可能性はともかく、とがった面白い発想で提言してほしいと言われているので、皆さん方、また次回に向けていろんな方の話を聞いたりしていただいて、次回も臨んでいただけたらと思います。<了>