自由民主党・衆議院議員
木原誠二

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ブログ

2021.07.22

人に優しい資本主義④:「人的資本を中心に企業経営を考える」

前回(①資本主義+民主主義を守る②成長と分配の好循環を作る③多様性と変化に対応する)まで、新しい資本主義を求める問題意識を3点説明させていただきました。

今回からは、では何に取組むのか、かいつまんで紹介していきます。一言でいえば、「成長と分配の好循環」を作り出すために「分配」の構造を是正していくことです。

民(Private)の側からのアプローチ、そして公(Public)の側からのアプローチ、両面ありますが、本日は先ず、民の側からのアプローチとして、資本主義のメインプレーヤーである企業、会社のあり方について、課題を提起したいと思います。

 

資本主義の根幹は「資本」です。その「資本」には、「人的」資本、「固定」資本や「設備」資本、「株主」資本、「事業」資本など様々なものがあります。

ところが、現状は、数ある「資本」の中でも「株主」資本に特に重点が置かれています。それを端的に現すのが、ROE(自己資本利益率)を最大化する経営手法であり、「企業が無配に転落した」、「自社株買いを実施する」といったことが連日ニュースになる現状です。

株主利益はもちろん重要ですが、同時に、企業をめぐるその他の多くの関係者に利益を適切に分配することも重要です。特に、「人的」資本への分配、すなわち給与・賃金への分配や人材教育への分配を伸ばしていくことです。この点については、政府与党として、既に、給与を引上げる企業に対する税制優遇措置(所得拡大促進税制)を講じるなど取組んできていますが、ROE同様に、個々の企業の給与分配率等を端的に示し市場が評価する枠組み・仕組みがあってもよいように思います。

 

そして、ROE経営の裏側にあるのが、経営の短期化・近視眼化です。その要因の一つが四半期報告書の存在です。株主、投資家への情報開示を充実させるため、企業は四半期毎に財務状況等を公表することとなっていますが、投資家の関心である「四半期決算の1株利益」に集中するあまり、超短期的な利益を追求し、中長期な人的投資や骨太な経営戦略の策定が疎かになる結果ともなっています。四半期報告はやはり是正する必要があります。ちなみに、あの米国ですら、長期投資と短期投資に税制上の差をつけ長期投資を促しています。

 

更に、上記のことを踏まえて、新たなマーケットのあり方についても検討すべきだと考えます。よい例の一つがスタートアップです。我が国の場合、スタートアップの多くは、最終的にIPOを通じた出口戦略を描くわけですが、ひとたびIPOを行ってしまうと、その後は市場に晒されて、配当の引上げや自社株買いを求められ、四半期報告を求められ、成長が鈍化する傾向が顕著に見られます。本来は、この段階で、研究開発に更に資金を投入し、人的投資を通じて人材を集め・磨き、更なる高みを目指すべきなのに、それが十分にできない現状があります。IPO直後の企業について、労働分配率や研究開発投資率といったものを参考に、将来の成長力に投資する新たな市場の枠組みを構築することも検討に値するのではないでしょうか。

 

なお、こうした議論をすると、「グローバル投資家、グローバルマネーが日本から逃げる」と指摘されます。日本は世界に開かれ、世界とつながって初めて成長が可能ですから、これは重要な指摘です。

しかし、ここで忘れてはならないのは、グローバルなESG投資の流れです。正に、利益追求一辺倒の経営にグローバルに一石を投じたのが、ESG投資です。「環境」、「社会貢献」、「ガバナンス」に企業がしっかり取組んでいるか、評価するものであり、非財務的要素により焦点を当てて企業を選別していく動きです。

ただ、ESGはあくまでも投資家からの目線であって、企業経営の理念そのものではありませんし、ESGに関する内容は現時点では基本的に非財務指標として統合報告書に記載されるに止まっています。

今後、非財務諸表の内容、特に人的資本への分配等を数値化し精緻化していくことや、またESG投資とコインの裏表の関係にあるESG経営の精緻化を日本主導で発信していくときです。

 

さて、民(Private)における分配は、本日提起させていただいた企業内での利益分配のあり方に加えて、企業間、特にサプライチェーン内での分配のあり方の課題があります。次回は、この点について、私見を述べたいと思います。